ガソリンエンジンは、ガソリンの燃焼によって動力を得る仕組みで、このプロセス中に熱が発生します。エンジンの温度が過度に上昇すると、異常燃焼が発生し、有害な物質が排出されたり、正しい点火タイミングに達する前に発火し、ノッキングが発生することがあります。
このため、エンジン冷却のために冷却装置が装備されています。エアコンのヒーターなどのシステムはこの冷却水の熱を利用して空気を温めています。
エンジンが正常に機能するために、冷却装置は極めて重要な役割を果たしています。冷却機構の構成部品と仕組みを理解しておくことは、自動車の運転とメンテナンスにおいて非常に役立ちます。
ウォーターポンプのメンテナンスの重要性
エンジン冷却水を循環させる役割を果たすのがウォーターポンプで、これはエンジンに取り付けられています。エンジンの回転力を活用して動作し、ベルトによって駆動されています。
通常、ウォーターポンプは交換が頻繁に必要な部品ではありませんが、車が10万km以上走行した場合は水漏れに注意が必要です。ウォーターポンプには、ベルトの駆動力を受けるためのシャフトが突き出ています。このシャフトはベアリングに支えられ、その両側に水漏れを防ぐためのシールが取り付けられています。
ベアリングが摩耗するなどして、シャフトの回転に振れが生じると、シール部分から水漏れが発生します。
ベアリング外側からの水漏れは、プーリー側から見ることができますが、内側からの水漏れは視覚的には検出できません。内側のシールからの漏れは、ベアリングに損傷を与えてしまう可能性があります。
内側シールから漏れた冷却水は、ウォーターポンプ本体に小さな穴が開けられており、そこから排出されます。
ウォーターポンプからの水漏れは通常微量で、エンジンから発生する熱によってすぐに蒸発します。
冷却水が漏れると、ボンネットを開けた瞬間に甘い臭いがします。したがって、たとえ一瞬であっても「甘いにおい」を感じた場合、冷却水の漏れが疑われるので注意が必要です。
ラジエターの基本構成部品
フロントバンパーの奥に位置し、ボンネットを開けた際に最も目につく部品がラジエターです。ラジエターは、バンパーから見て奥側に配置されており、手前にはエアコン用のコンデンサーがあります。
ラジエターを近くから見ると、縦に配置されたやや太めの管が複数本通っており、これらの管からは横に細いひげのような部分が多数伸びています。縦の管を通るのは冷却水であり、横のひげ状の部分は熱を放散する役割を果たしています。
以前は、高い熱伝導率を持つ銅製のラジエターが一般的でしたが、現在では軽量化のためにアルミ製が主流となっています。ラジエターは通常、上部タンク、ラジエターコア、下部タンクの3つの部分から構成されています。高温の冷却水がエンジンから流れてきて上部タンクに入り、ラジエターコアで冷却された後、下部タンクからエンジン内部に戻ります。
ラジエター内部は、通常の大気圧よりも高い圧力で維持されています。大気圧下では、水は100°Cで沸騰し、気泡が発生して冷却効率が低下します。そのため、ラジエター内部の圧力を高めることで、冷却水の沸点を110°C以上に引き上げています。
冷却システムの圧力調整装置
ラジエターの内部圧力を調整する重要な部品がラジエターキャップです。ラジエターキャップは、ラジエターの上部タンクや冷却水を貯めるリザーブタンクの上部に取り付けられています。
ラジエターキャップは、内部にバネがあり、このバネの力で弁を閉じています。圧力が過剰に上昇すると、キャップの弁が開き、冷却水がリザーブタンクに放出されます。逆に、圧力が低下すると、リザーブタンク内の冷却水が吸引され、エンジンの冷却水が不足しないように調整されます。
ラジエターキャップの上部には、1.1kgf/cm²(キログラム力/平方センチメートル)などの圧力値が記載されています。キャップを交換する際には、同じ圧力値のものを選びましょう。
リザーブタンクには、水量の上限と下限を示す目盛りが備わっています。冷却水の量を確認する際には、エンジンが冷えた状態で確認します。
上限の目盛りがタンクの中央よりもやや上に位置しているのは、冷却水が温かくなり膨張する際の余裕を確保するためです。エンジンの温度が上昇すると、上限の目盛りを超えることがありますが、これは正常な現象です。
一方、下限を下回ると、冷却水の吸引時に空気が混入し、過熱の原因となります。下限以下の水量になった場合は、冷却水の補充が必要です。ただし、現代の車両では水ではなく、特別なクーラントを使用しています。したがって、水を補充しないでください。クーラントの補充は、専門の整備工場で行うべきです。
サーモスタットの役割と重要性、故障とその影響
エンジンの制御には特定の温度が最適であり、低すぎても高すぎても望ましくありません。そのため、エンジンの起動直後は、燃料の噴射量を増やして急速に温度を上昇させるように制御されます。適切な燃焼室温度が確保されないと、最適な燃焼が行われず、排気ガスの浄化装置の性能も低下します。
エンジンの水温が低いと、ラジエーターに冷却水が早く流れ込んでしまい、水温が上昇しづらくなります。この問題を解決するのがサーモスタットです。
サーモスタットの仕組みはシンプルで、バネの力を利用してバルブを閉じる向きに押し付けられています。
バルブの軸(スピンドル)には、ワックスが充填されており、水温が上昇するとワックスが膨張し、バルブを開く向きに押し上げます。
この仕組みにより、サーモスタットはゆっくりと開いて水温に合わせて調整し、適切な温度に保ちます。
サーモスタットはシンプルな構造であり、一般的には故障することは稀ですが、完全に壊れることもあります。
サーモスタットが閉じたまま故障すると、エンジンが過熱し、最終的に走行不能に陥ります。オーバーヒート状態で運転すると、エンジン内部の部品に損傷を与え、エンジンの大規模な修理や交換が必要になる可能性があります。
一方、サーモスタットが開いたまま故障すると、エンジンの水温が上がりづらくなり、ヒーターの効力が低下し、燃費が悪化する可能性があります。
サーモスタットは小さな部品ですが、エンジンの正常な動作にとって極めて重要な役割を果たしています。
まとめ
冷却系は、一般的にはあまり注目されない部分かもしれませんが、車の正常な運行において非常に重要な要素です。近年の多くの車では、水温計の代わりに青いランプと赤いランプが使われています。
青いランプが点灯している間は、エンジンの水温が適切な範囲よりも低いことを示しています。このランプは、水温が適正に上昇し、安定すると自動的に消えます。
一方、赤いランプが点灯すると、エンジンが過熱していることを示しています。この状態では速やかに車を停車させるべきです。ただし、エンジンを停止させないでください。エンジンが停止すると、ウォーターポンプが動作停止し、冷却水の循環が止まります。代わりに、アイドリングの状態でボンネットを開けて、エンジンルームを冷却させることができます。その後、レッカーサービスなどを呼んで修理工場に車を運ぶようにしましょう。
冷却系の正常な動作は、エンジンの寿命を延ばし、車の信頼性を高めるために極めて重要です。適切なメンテナンスと冷却水のチェックを怠らずに行いましょう。
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エンジンは、冷たくても熱くてもダメ。適正な温度であることが必要です
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冷却水は、エンジンの適正水温を維持するために不可欠です
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水温計がない車は、青いランプと赤いランプで水温の異常をしらせます。
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ラジエターには、ファンがついています。ファンモーターの故障でオーバーヒートすることがあります。
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冷却水が不足している場合は、水を足さないで修理工場で補充しましょう。