電子制御と機械制御: 車の進化を探る、整備士の視点で解説します

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整備士への整備ガイド
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吸気系の役割は、吸入空気に燃料を混ぜて混合気を作り、それをエンジンの燃焼室に送り込むことです。 電子制御式が普及することで、燃料系の故障はほとんど経験されなくなりました。 キャブレターからインジェクション噴射への移行には、どのようなメリットがあるのでしょうか? 整備士としての知識として、その点について記事にまとめてみました。 キャブレターは今では旧車などでしか見かけることはありませんが、その構造を理解しておくと、電子制御式のインジェクションの仕組みも理解しやすくなるでしょう。

キャブレターの仕組み:燃料供給の奥深いメカニズム

キャブレターの内部には、燃料を貯めるための「フロート室」と呼ばれるスペースがあり、その中に燃料を調節するための「フロート」(浮子)が存在します。 正しい量の燃料がたまると、フロートが浮き上がり、燃料の供給口を閉じて燃料の供給を止めます。燃料が減ると、フロートが下がり、供給口が開いて燃料が供給される仕組みです。

フロート室からキャブレターの内部の「ベンチュリー」部分には、通路が延びています。 この通路の入り口には、「メインジェット」と呼ばれる小さな穴の開いたノズルが付いており、この穴のサイズを調整することで燃料の噴射量を調節します。

燃料が吸い出される仕組みは、負圧を利用しています。 キャブレターのフロート室内の気圧は大気圧と同じです。一方、キャブレターのベンチュリー部ではエンジンの吸気過程によって負圧が発生します。 フロート室内の燃料は大気圧に押され、ベンチュリー部の気圧が低くなるため、燃料は押し出されて噴射されるのです。 キャブレターは、電気を使用せずにエンジンが生み出す負圧を利用して動作します。

キャブレターの動作原理:負圧とアクセルの連携で燃料制御

キャブレターは、負圧によって燃料を送り出す仕組みです。ベンチュリー部に伸びる穴の大きさによって、噴射される燃料の最大量が変わります。 さらに、アクセルの開度に応じてその噴射量を調節する必要があります。最大噴射量を調節するためには、フロート室からベンチュリー部に伸びる通路に取り付けられている「メインジェット」の穴径を変更します。

アクセルの開度に応じて調節するのは、「ニードルバルブ」と呼ばれる可動式の針のような部品です。このニードルバルブは、メインジェットを通る通路の穴を開閉して燃料供給量を調整します。 ニードルバルブの開閉も負圧を利用しています。アクセルが踏まれていない状態では、大気圧と負圧の差が小さく、ニードルバルブが上昇せず、通路が閉じて燃料供給が制御されます。 一方、アクセルを開けると負圧が増加し、大気圧との差が大きくなります。これにより、ニードルバルブが上昇し、通路が開いて多くの燃料が噴射される仕組みです。

キャブレターには、アクセルが閉じたアイドリング状態でも空気を通すための通路が備わっています。 アイドリング回転数を調節するためには、アイドルアジャストスクリューが使用されます。通路の口径は、アイドルアジャストスクリューのねじ込み量で調整されます。 一方、インジェクター仕様のエンジンでは、アジャストスクリューの代わりに電子制御のステッピングモーターが使用されています

燃料ポンプの進化:機械式から電動式への転換と効果

キャブレーター方式でもインジェクター方式でも、燃料をタンクからエンジンまで供給するためには燃料ポンプが備わっています。 かつてのキャブレーター車では、エンジンのカムシャフトによってロッカーアームを介して駆動される機械式燃料ポンプが採用されていました。 キャブレーターは、フロート室に燃料を貯める必要があり、そのための供給量は少なかったため、この方式でも十分な性能が得られました。 この機構を用いれば、電力を使用せずに燃料を供給することができました。

しかしながら、機械式のポンプには内部のダイアフラムが破れるなどの問題が存在しました。 電動式燃料ポンプの登場により、燃料タンクに直接ポンプを設置することが可能になりました。

インジェクター方式では、キャブレーターとは異なり、燃料の噴射に高い圧力が必要です。 インジェクターはバルブを開閉することで噴射量を調整しますが、燃料の圧力が安定していないと噴射量を正確に制御することが難しくなります。 インジェクターの取り付け部には高圧に耐えられる金属製のパイプが使用され、その先端には燃料の噴射後に燃圧の急激な低下を防ぐためのプレッシャーレギュレーターが備わっています。これがないと、インジェクターから燃料が噴射された瞬間に圧力が急激に低下し、適切な噴射量が得られません。

インジェクター仕様が初めて導入された時期には、エンジン始動時にはイグニッションスイッチをONにし、エンジンチェックランプが消灯してからセルモーターを操作する必要があり、燃圧が上昇していないためエンジンが始動しづらいと説明されていました。 しかし、最近では燃料ポンプの性能向上もあり、燃圧の上昇が迅速に行われるため、このような説明は不要となりました。

インジェクションの利点:手動調整不要で快適な運転体験

インジェクター方式では、エアフローセンサーによって吸入空気量が計測され、そのデータがECUに送られます。 ECUは受け取った吸入空気量の情報を基に、最適な燃料噴射量を計算し、インジェクターにバルブを開ける信号を送ります。 インジェクターには、燃料ポンプによって高い燃圧がかかっているため、バルブが開かれると燃料が急速に噴射されます。 インジェクターのバルブを開く時間を調整することで、燃料供給量が制御されます。 インジェクターの大きな利点は、吸入される空気量に対して正確な燃料噴射が行えることです。

また、アイドリング回転数の制御もステッピングモーターによって調整されるため、エアコンを使用したり電気負荷が高まった際にも回転数の上昇制御が自動的に行われます。

キャブレター方式では、多くの調整が必要ですが、インジェクション方式ではこれらの調整が自動的に行われるため、どなたでも快適に運転することができます。

キャブレーターとインジェクター:自動調整と精密な燃料制御の差

キャブレーターは、気圧の変化などによって調整が必要なことがあります。 また、キャブレーター内部の通路が汚れたり詰まったりすることで、エンジンの調子が悪くなることがあります。

キャブレーター車では、冷間時にエンジンを暖めるためにアイドリング回転数を上げることや、エアコンやライトなどの電気負荷が増えた際にアイドリング回転数を調整するための調整ネジが備わっています。 また、寒い季節などにガソリン供給量を増やすための「チョークレバー」もキャブレーター車の特徴です。 寒い日にエンジンがうまく始動しない場合、チョークレバーを引いてガソリン供給を増やし、エンジンを温めた後にレバーを戻す必要があります。

キャブレーター車では、燃料混合の状態を確認するためにスパークプラグの焼け具合をチェックすることがありました。 プラグが白っぽくなっている場合は燃焼温度が高すぎることを示し、「焼け気味」で燃料が薄いことを意味します。 一方、黒く湿ったプラグは燃焼温度が低く、「かぶり気味」で燃料が濃いことを示します。

しかし、キャブレーターは気圧の変化に対して燃料の噴射量を自動調整することができません。 燃料噴射量の調整にはメインジェットの交換が必要であり、これにはキャブレーターの取り外しと分解が必要で、容易に行える作業ではありませんでした。 キャブレーター車では、天候や標高の違いによってエンジンの調子が変わることがありました。

一方、インジェクター方式では、噴射時間の調整だけで燃料の噴射量を精密に調節できます。 高地などの標高の高い場所でも、常に一定の運転が可能であり、冷間時の回転数上昇やエアコン使用時の回転数の調整もECUによって自動的に行われます。

近年のインジェクター制御車では、燃料制御の進化とイリジウム電極プラグの使用により、スパークプラグの焼け具合をチェックする必要はほぼなくなりました。

まとめ

キャブレーター車では、定期的な調整が必要な部分があり、気圧や天候の変化によってもエンジンの調子が影響を受けることがありました。 一方、インジェクター方式では、各種センサーとECUによって常に最適な燃料噴射量が自動的に調整されるため、手動の調整が不要です。 整備士としては、キャブレーターの仕組みは興味深いものであり、その分、手間もかかりました。
キャブレーターとインジェクター、それぞれの方式には特性があり、過去の車のテクノロジーと現代の技術の進化が感じられますね。整備士の仕事は、そうした車両の特性を理解し、最適な保守や修理を行うことが重要です。

  • キャブレターは機械的に燃料の汲み上げ、噴射を行っている。
  • キャブレターは気圧や天候によってエンジンの調子が変わることがある。
  • アイドリングアップ制御も各アジャストスクリューで調整が必要。
  • インジェクターは、キャブレターの機械的構造を電子制御式に置き換えたもの。
  • いつでも、どこでも快適に走れるのはインジェクター制御のおかげです。

 

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